ライフィセットの視点で綴る、もう1つの“ベルセリア”
という紹介文のついた『テイルズ オブ ベルセリア 上』(著者:山本カズヨシ)が、3/10に発売されました。
スーパーダッシュ文庫のシンフォニア小説とかすごい厚くて長かった記憶がありますが、こちらは230ページ程度ですぐ読み終わりました。上下巻で完結するようなので、かなりのハイペースでストーリーが進んでいきます。
内容は、ライフィセット視点なので、他のキャラクターの内面の掘り下げは少ないのですが、とくにアイゼンとロクロウはライフィセットにとってすごく”いい大人”を演じてくれています。男性陣の雰囲気はゲーム版のまま、とても優しくて読んでいて癒やされました。
※以下はネタバレを含みます。
上巻では、ライフィセットとベルベットの出会い~ヘラヴィーサ~ヴォーティガン~ローグレス~聖主の御座までがほぼゲームのとおり描かれていました。
本文イラストにはエレノア以外全員登場しています。
気になった点などは以下のとおり。
素晴らしい序章
書き出しからいい意味で目を疑ってしまいました。
ま、まさか、そっち? なるほど、そういう設定ね、え~あ~いいわ~、えっでもこんなにいいの?
という感想しか書けませんが、とにかくとても良いのでぜひ読んでいただきたいです。
ただし1ページ目から本当に盛大にベルセリアおよびゼスティリアのエンディングのネタバレをしており、これを買う人は当然もうゲームやってるよね? と試されている感じがしました笑
ゲーム未プレイでこれをパラ読みしてしまった人は悲惨かもしれない。
クロスしているのは序章だけですが、ゼスティリアがお好きな方にもおすすめの内容です。
かわいいマギルゥ姐さん
この小説では、ゲーム版以上にマギルゥが騒いでいて可愛いです笑
ゲームにもないオリジナルの口上も多く、まさに賑やかし要員といった感じ。序盤はビエンフーがいないので戦闘に参加できないのですが、離れて見学する様子も描写されるなど丁寧に書かれていて、もしや作者さんはマギルゥ推しなのではと思ってしまいました……!
さらに小説のマギルゥのかわいいポイントとして挙げたいのが「おぶさりがち」という点。笑
ヘラヴィーサでテレサに捕まり、監獄島から脱出するときのことを話すシーンではこう言っています。
監獄内をふらついていたマギルゥは、同じように歩いていたロクロウと遭遇。この男について行けば外に出られるとカンが働き、彼の背におぶさり港に出たところで、戦闘を切り抜けたばかりのベルベットと出会ったという。
これはゲームにもあり、コミカライズ版でも絵付きで見られましたが、小説でもふれられるとは。
そして、小説オリジナル展開でも。
ローグレスで、演説中のアルトリウスに近付くため城壁を登るベルベットのあとを追い、ロクロウがライフィセットを背負って壁を登り始める(ゲーム版ではどうやってロクロウたちが登ってきたかは説明されていなかった)。
アイゼンも壁に手をかけると、その背中に何者かがのしかかった。
「うおっ!?」
「儂も連れてけ!」
「クッ……運賃は請求するからな!」
かわいくないですか?
ロクロウだけでなくアイゼンにもおぶさってて可愛いです。メルキオルにはこんなことしてなかったと思うけど、もしかしたらお師さんにもおんぶして欲しかったのかもしれない。。
また、ローグレスの街をふらつくライフィセットが、ロクロウ、アイゼン、マギルゥの三人に遭遇するシーンがあり、これもなかなかかわいかった。
「俺たちはしばらく、あの店にいるつもりだ。珍しい心水を置いているらしいからな」
「儂は酒場には行かんがの~」
「なんだよ、たまには付き合えって。飲める歳だろう?」
「なっ……なんとデリカシーのないロクロウじゃ! 儂のような可憐な乙女にその手の話は禁忌中の禁忌じゃぞ!」
「心水が嫌なら、ジュースでも飲んでいればいい」
三人で飲もうと誘われてるのかわいくないですか?
スルーされているようでいてちゃんと彼らの一員になっている距離感めっちゃ好き。
他にも、でかい男ふたりにあしらわれたり首根っこ捕まれてばたばたしてるところが多く、すごくかわいいです。かわいい。かわいいよ!!(ダイマ)
ライフィセットから見たベルセリア
本作品は、ライフィセット視点なので、彼が意思を取り戻すまでの心の動きやその後の成長について丁寧に書かれています。(といっても、とにかくハイペースなのでさらっとしているけど。)
ライフィセットに大きな影響を与えたのは、まずはベルベットで、そのあとはロクロウとアイゼンということは、ほぼゲームどおりですが、とくに印象に残ったシーンについて改めて書きます。
・ヴォーティガンで羅針盤をみつけたライフィセットは、その道具に対して抱く「不思議な気持ち」をうまく表現できないでいました。それでもベルベットに伝えるため、なんとか言葉にしようと考える。その気持ちはベルベットの「ドキドキする?」という問いに重なり、ライフィセットの中で新しい感情が芽生えるようになる。
はじめのうち、ライフィセットは世界のあらゆることに対して「不思議」だと思っていました。なんとなく心は動くけれど、それがなぜなのか、なんなのか、自分でわからないし考えることもない。だから全部「不思議な気持ち」になってしまっていた。
それが、ベルベットとの出会いを通じて、好きか嫌いか、楽しいか怖いか、そういった感情を獲得した。そしてそれが「生きている」ということだと教えてもらった。彼の意思が戻った第一歩でした。
・同じ聖隷で、意思を持ち、戦いも強いアイゼンの存在も、ライフィセットを導く大きな要素でした。彼の言った「自分の舵は自分で取れ」「そうでなければ、本当の意味で生きているとはいえない」「自分で決めろ」という言葉が、ライフィセットの揺るぎない羅針盤となります。
小説読んでいて改めて思ったのは、実質的にライフィセットの内面の成長に一番貢献したのはアイゼンなんだろうなということ。彼の生き方がそのままライフィセットの指針になり、それも無理に選ばせたのでなく、自分で考えて決めさせたというのが教育者として至高の存在だと感じました。
・また、ライフィセットが悩み落ち込んでいると、いつもロクロウが声をかけてくる。フォローしたり、笑い飛ばしたり、導いたりして、ライフィセットが課題を達成できるよう支援してくれます。肯定し、あるいは答えを出すまで見守ってくれる、本当に頼れる存在。
ちょっとロクロウいいところしかないんだけど大丈夫か?笑
・聖主の御座に行く前に、ベルベットがライフィセットに「あんたは残ってもいいのよ」と言うシーンがあります。
ゲーム版のライフィセットはすぐに「ベルベットと一緒に行く」と迷わず答えていましたが、小説版では「少し……考えさせて」と言い、他の仲間たちとも話をしてよく考え、自分で答えを出します。
ゲーム版ではそれを訊かれる前の時点ですでに悩んだりみんなと話をしていたわけですが、ここの構成の変更はテイルズの最終決戦前夜の雰囲気っぽくて良いなと思いました。
・ライフィセットの成長過程を見ていると、エリクソンの発達課題を思い出す。
出典:「発達課題」-Wikipedia
この問いかけに近いことを、ライフィセットは短い期間の中で自問自答し、ときには周りの大人に導かれながら、ひとつひとつ達成していく。
まさに健全な発達をなぞっているんだよなあ。
全体的に駆け足でダイジェスト版みたいな感じでしたが、マストなイベントをなぞっており変な解釈になっている部分もなく、楽しく読めました。
4/8発売の下巻の予約も始まっています。上中下の構成にする分量だと思うけどおさまりきるんだろうか~~
後半は、さらにライフィセットが感情豊かになるので、どんなふうに描かれるのか楽しみです。地脈でのイベントでまた泣かせてくれるだろうか。