二月の星のうえ

テイルズが好きです。ほぼネタバレに配慮していない個人的な感想です。

【ベルセリア】エンディング後のマギルゥ=メーヴィンについての考察

ゼスティリア世界へ続く物語としてのベルセリアの中でもまだ謎の多い、「マギルゥのその後」について考えていきたいと思います。

ゲーム本編にて、メルキオルの姓がメーヴィンということが判明しましたが、これはゼスティリアに登場した「刻遺の語り部」一族の名前と同一であり、その名を継いだマギルゥの存在が、のちの世界に大きく影響していることが明らかになりました。 

まずはテイルズオブゼスティリア公式設定資料集の該当項目を参照します。

【刻遺の語り部】
「メーヴィン」という名を代々受け継ぐ人間の一族がいる。彼らは「刻遺の語り部」と呼ばれる存在で、「人間・天族・導師・憑魔などの歴史に干渉しない」という誓約により、非常な長命を得ている。「刻(とき)に遺される」という名からわかるように、人間では考えられないような時間を生きながら、人や天族が織りなす歴史を語り、後世に残すことを使命としている。これは初代メーヴィンに対して課せられた、一種の義務や罰ではないか、という説が伝わっている。歴史に干渉しないためその存在を知る者は少なく、天族のあいだでも語ることは禁忌とされているようだ。

【メーヴィン】
探検家にして、”看取る者”を意味するメーヴィンの名を受け継ぐ、刻遺の語り部の一族。公平であるため時代の趨勢に関わらないという誓約のもとに長命を得て、導師や災禍の顕主の物語を後世に語り継ぐ宿命を背負う。(中略)禁忌を犯し、スレイに災厄の時代の始まりの記憶を見せ、答えを導き出す手助けをしたため、誓約の力が失われて永眠した。

この説明で気になるのは、「初代メーヴィンに対して課せられた、一種の義務や罰ではないか、という説」がある点です。
初代メーヴィンが誰を指すのかはまだわかっていませんが、反省されるべき対象であるならば、長命を得て歴史に干渉・世界の理を書き換えようとしたメルキオルなのでしょう。

  

マギルゥの基本姿勢について

マギルゥの行動原理は意外と一貫していて、わかりやすいです。
ゲームの流れに沿って見ていきます。

 

◇序盤(監獄島脱出~)

どさくさに紛れてベルベットたちと一緒に脱出。
暇つぶしとビエンフーを探すついでにしばらく同行。
「ベルベットの牙が世界にどれほど傷をつけるか、裏切り者探しをしながら見物させてもらおうか」と言っている。
ビエンフーと再契約してからも、ライフィセットにみんな一緒に来てほしいと頼まれて・暇つぶし・ベルベットの復讐劇見物のために同行。

 

◇聖主の御座でアルトリウスと対決後

アルトリウスに圧倒的な力の差を見せつけられたのに、ベルベットの牙がまだ折れていないことに驚く。
次こそはと折れる方に賭け、「これで同行する楽しみができた」と言う。

 

◇アバルでメルキオルの幻術を見て

「人は苦痛には耐えられるが、幸福には逆らえん」と言い、メルキオルの幻術で(かつて心が壊れた自分のように)今度こそベルベットが折れてしまうと思うが、彼女は夢を振り切った。ベルベットの心がまだ折れず、耐えたことに驚く
「”憎い”とはどんな気分なんじゃ?どれほど苦しい?どんなに辛い?身を焦がすほどの憎悪は、生きている意味を、実感を与えてくれるのか?」と問う。ボロボロになってもまだ戦おうとするベルベットを見て「むかつく奴じゃて」と言う。
何が起きても「どーでもいい」としか感じない壊れた心が揺れ動き始める。

 

◇ザ・カリスでメルキオルを抑えながら

ベルベットにできて……儂にできんわけがあるまい……
「あ奴らは、儂らとは違う……悩み、苦しみ、それでも己が鼓動を抱きしめて……この醜い世界を懸命に”生きて”おるんじゃ!(中略)この結末だけは見届けねば……どーにもおさまりがつかんのじゃっ!!
「正義の対魔士を蹴散らす悪逆無道の魔法使い。マギルゥ・メーヴィンとは、儂がことじゃ!」
と、名言連発。
また、あらすじにはこう記載されています。

彼女はどうしても見届けたかった。再び立ち上がるベルベットの姿を。自分が無くした生きる力の強さを。ベルベットたちとの旅が、彼女の壊れた心にも火を点していたのだ。

 

◇キララウス火山でのメルキオル対決前夜

「花が枯れねば幸せか?狼が草を喰えば満足か?(略)名も無き花とて咲きたい場所に咲く。他人にとってはどーでもいい願いにも、決して譲れぬ”生きる証”があるんじゃ!」
「案ずるな。お主の最期は、儂が”看取る”

マギルゥは序盤~中盤までは、基本的に「ヒマが潰せればよい」「どーでもよい」という姿勢でした。
周りに流されているわけではありませんが、かといって他のパーティメンバーのように明確な目的もない、言っていることもほとんど本心ではなさそうな人として描かれています。
十年ほど前に師によって心を砕かれていたマギルゥは、もはや“強い感情”をもつことはできなくなっていました。

そんな彼女は、復讐のために何もかもを捨てて突き進むベルベットに興味をもちます。
ベルベットの目的は「最強の導師アルトリウスを殺すこと」。ふつうに考えれば、そんなことは出来るはずもないのに、一直線にそこへ向かうベルベットの心は一見すると硬く強い。
しかしマギルゥは、心なんてものはすぐに壊れてしまうことを知っていました。
かつての自分がそうだったからです。
マギルゥはベルベットの復讐劇を暇つぶしがてらに見物しながら、過去の自分と彼女を重ねていたのだと思います。 

アバル村での出来事において、そのことがもっとも顕著に表れていたと思います。
相手は同じメルキオルでした。自分は心を壊されてしまったのに、一方で、ベルベットはメルキオルの幻術を振り払った。
とはいえベルベットの心は崩壊寸前だったと思います。そんな状態でも耐え、まだ牙を折られない彼女を見て、マギルゥは「むかつく奴じゃて」と言う。自分には出来なかったことを、彼女は超えようとしていた。それは、マギルゥにとって希望となり、同時に憧れとなり、負けたくないという気持ちも芽生えさせたのではないかと思います。少年漫画風にいうと、ライバルみたいな感じ。

マギルゥは、ベルベットたちと旅をして、こんな人間らしい自由な感情を出せるようになるまで心が回復したのだと思います。

そうしたら今度は「見届けたくなってしまった」。
この姿勢が、刻遺の語り部の一族に継承されていくことになるのではないでしょうか。

マギルゥは、「メルキオルや意思を失った聖隷は“生きている”とはいえない、ベルベットやライフィセットのように悩み苦しみ懸命に進むことこそが“生きている”のだ」と言いました。そしてかつての師の前で宣言します。

「正義の対魔士を蹴散らす悪逆無道の魔法使い。マギルゥ・メーヴィンとは、儂がことじゃ!」

この瞬間は、マギルゥにとってゲーム中いちばんと言ってよいほど象徴的で意味のあるものだと思います。
過去の自分の名(マギラニカ)ではなくマギルゥと名乗ったことは、心を失くした弱い自分との決別を意味し、メーヴィン姓を名乗ることは、師さえも超えてゆこうと決意したということです。
これを聞いたあと、メーヴィンが少し驚くような演出があるので、マギルゥは「メルキオルの役割を継ぐつもりがない」と明白に主張していたのでしょう(そもそも破門されている)。
しかし彼女はあえてメーヴィンを名乗る。この意味は、師を超える・その役割を自分が引き継ぐ、ということになるのだと思います。 

そしてメルキオルとの最後の戦いの前に、マギルゥは「案ずるな。お主の最期は、儂が”看取る”」と言います。
冒頭でふれた「”看取る者”を意味するメーヴィン」というのが、それ自体の古代語の訳なのか、後付けの意味なのかはわかりませんが、これがダメ押しの宣言となっています。

「看取る」という言葉を辞書で調べると「病人の世話をする。看病する。また、その人の臨終に付き添う」とあります。
言葉どおり引導を渡すという意味と、名前を継ぐ・代替わりするという意味がかかっている。なんでも「どーでもいい」と思っていたマギルゥが、自分の意思で生き始めたことが、表れています。

 

エンディング後のマギルゥ

さて、エンディング後のマギルゥの姿はまさにTOZのメーヴィン的イメージになっています。
人間であるエレノアやモアナたちの営みを眺め、手帳に書き留める。
同じ人間であるにも関わらず、マギルゥは彼らの輪に入らず、聖隷ビエンフーとともに歩いていく。 

ちなみにマギルゥの持っている手帳には翼を広げた鳥のようなマークがありました。
細かいですが、TOZのメーヴィンおじさんの持っている煙管や本にも、鳥の模様があしらわれています。飛びたいから飛ぶのだ、という意思の象徴なんでしょうか。 

メルキオルの能力や、TOZでのメーヴィンの在り方から察するに、「誓約により寿命を伸ばす」「導師や災禍の顕主の物語を後世に語り継ぐ」「必要以上に歴史に干渉しない」という役割は、マギルゥの代からそれらしいことが始まったのだろうと思います。

でも、単に「歴史を記録するためのシステムに成る」というのは、あまりにベルベット一行の流儀に反すると思いませんか。

だからマギルゥは、他の誰に強制されたわけではなく、自分のために、弱くて強い人間たちを見届ける決意をしたのではないかと思います。
そこには、ベルベットのように自分の想像を超えるような人が現れることへの期待、“生きている”人々を見守りたいという思い、自分の好奇心を満足させたいという欲や、「暇つぶし」さえも含まれていていいのだと思います。 

刻遺の語り部とは、「初代メーヴィンに対して課せられた一種の義務や罰」や「刻にとり遺された者」ではなく、マギルゥらしい生き方を受け継ぐひとびとのことだったのだと考えたいなと思いました。

※TOZには探検家のおじさんのメーヴィンと、美貌の冒険詩人(Zの300年前に死亡)が登場しますが、マギルゥが700年生きているとは考えにくいので、別人かと思います。詩の内容は、マギルゥが言っていてもおかしくない、人間への愛に満ちたものでしたが。
なお、メーヴィンおじさんに子どもや後継者がいたような描写はなく(親から子に受け継ぐものなのかも不明)、語り部の一族がその後どうなったのかはわかりませんが、さすがに途絶えさせるのはメーヴィンおじさんが浮かばれないので、ミクリオたちがよきにはからってくれたのではないかと思います。

マギルゥ姐さんの過去についてはこちらの記事をどうぞ。