二月の星のうえ

テイルズが好きです。ほぼネタバレに配慮していない個人的な感想です。

追記【ベルセリア】公式設定資料集オリジナル小説について/その1

テイルズ オブ ベルセリア 公式設定資料集(12/17発売)のオリジナル小説『真名~true name』についての感想をさっそく書いていきたいと思います。
ベルセリアのシナリオを山本さんとともに担当した平松さんによるオリジナル小説で《真名》にまつわる5本の物語が展開されています。

本当はもう少し時間経ってから書こうと思ったんですが、あまりにも良すぎて興奮が抑えられず……。前回も書きましたがめっちゃくちゃよかったです。買って読んで欲しいのであまり細かく書かないようにしますが、この小説で新たにわかったことがいろいろあったのでまとめてみます。
ほんとめっちゃ良いので中古本でもなんでもいいからみんな買って~~~笑

 

※12/20追記。真名の誤植?と時系列の疑問について、平松さんがツイッターで補足されていたので追記しました。ちなみに、作者さまに質問したのは私ではありません笑

 

 

第1章 タイタニアの午後

タイタニアに停泊中、穏やかな一日を過ごしていたアイフリード海賊団や業魔たち。しかしとある騒動を起点に、モアナが自分の名前に込められた意味を探すお話。

聖隷と違い、真名をもたない人間にとっても、名前というのは誰かの想いが込められた特別なもの。それに気付いたモアナと同じく、ライフィセットも、自分がベルベットから名前をもらった喜びを噛みしめる。名前は、自分が自分として生きていくための第一歩なのだ、と気付く内容です。

本章では「真名はどうやって決めるの?」ということに(TOZ-B通して初めて?)ふれられています。

「真名とは、俺たち聖隷が生まれながらに持っている《自分を表す言葉》のようなものだ。自分が《そうだ》と気づいたとき、心に浮かび、自分自身と重なる名前のことだ」

アイゼンはこのように言い、自分がエドナに名前を付けたときのことを語ります。

エドナがまだ小さかった頃、理由はわからないがどうしても泣き止まず、アイゼンは途方に暮れていた。しかし不意にふいた風に誘われるようにして森を抜けると、眩しく波打つ草原が目の前に広がった。すると、エドナは泣き止み、無邪気に笑い出し――辺り一面に赤い可憐な花が咲いた。そのとき、「早く大人になりたい」というエドナの声が心に流れ込んできた。アイゼンは、迷わず、赤い花の名前をエドナに与える。早咲きのエドナ、と。

ほう、なるほど、そうやって真名は決まっていくんだ。

「俺は遅咲きでな。自分の真名に気付いたのは、割と最近なんだが」

アイゼンの真名は、『探索者アイゼン』。ということは、アイフリードと出会い、人間と一緒に冒険しはじめてから自分の真名に気付いたんだ。アイゼンは1000歳なのに、990年近く自分の真名がわかんなくて、大丈夫だったのかな?
それより前には別の自分を表す真名があったのかと思いますが。『優しいお兄ちゃん』的な。

ここでロクロウが素朴な疑問を口にします。

「だが、マギルゥは契約のときに『汝に与える真名』って言ってなかったか?」
「《器》の盟約は、心と心の契りだ。互いの心が通うことで、聖隷の真名を対魔士は感じ取り、言葉に表しているに過ぎない。もっとも、意思を奪われた聖隷に心も真名もない。対魔士どもが口にするのは自己満足の戯言だ」

聖隷の真名に気付くのは、自分自身でも、心を通わせた他人でも、どちらでもいいということのようです。出る答えは同じなのだから。

さて、ライフィセットの場合を尋ねられたとき、彼はこう言っています。

「テレサ様のときは覚えてないけど、エレノアとの契約の瞬間は、とても優しくてあたたかい気持ちになった。エレノアが唱えた真名を聞いた僕は『前から知っていた』ように感じたよ」

あ~~~いい表現だなあ。

心に浮かんだ素直な気持ちが、名前になる。
なるほど。ということは、聖隷と契約するときは、心を通わせなくてはならない。それが出来ない場合は、意思を奪って《道具》に貶めなくてはならない。カノヌシの力はほんと都合よく利用されてるんだなあ。

さて、次章では「テレサ様のとき」について描かれます。

 

第2章 使役聖隷たち

2年ほど前のこと、新人対魔士のテレサ・リナレスは、自分に与えられたのが《金》と《銀》の髪をした二人の子どもの聖隷だったことに納得できず、特等対魔士メルキオルに真意を問うていた。あれらには近接戦闘能力が期待できず心許ない、ゼロナンバーとして敵を討つ術をもつべきだ、と言うテレサだったが、しかし彼女の本心には「姉として、オスカーを守るため」という《個》に対する想いがあった。メルキオルはそれを見透かし、彼女を咎めるのだった。
テレサが部屋に戻ると、《金》の聖隷が消えていた。あわてて探しに行くテレサだったが、彼女の心には、やはり「オスカーに心配をかけたくない」ということばかりが浮かんでいた。みつからずに焦り出したとき、「そういえば昔……」と彼女はオスカーとかくれんぼをしたことを思い出す。

テレサの頭の中は本当にすべての出来事の結果がオスカーに繋がるんだなあ、ということがよくわかる部分です。
もし聖隷を失ったら、メルキオルの信用も対魔士の資格もなくしかねない、そうなればオスカーに恥をかかせてしまう、でもオスカーはそんなことで腹を立てたり周囲の目を気にしたりしないだろうが、心配させて、悲しませてしまうだろう……と、とにかくオスカーオスカーな姉上、まあ、微笑ましいです。 

テレサは、《金》の聖隷が本を大切にしていたことを思い出し、もう一度図書室へ向かう。地下の書庫へおりると、やはり聖隷はそこにいた。彼は、本でモノの名前を調べていたらしく、テレサに説明する。
そのなかの「銀の騎士」「金の一角獣」の人形が、二人の聖隷の在り様と重なり、テレサはこれを真名にしようと考えた。
部屋に戻ったあとで、おもちゃをきちんと片付けるようにとマウリッツ織りのリュックサックを《金》の聖隷に与えた。相変わらず光のない目でそれを受け取る聖隷に、テレサは無意識に「喜ばないのですね……あの日、オスカーにリュックをあげたときは喜んでいたのに」と思う。その直後、ハッとしたテレサは、自分が道具であるはずの聖隷に無用の《情》を抱き始めていることに驚く。
その原因が、あの真名だ。そう思ったテレサは、ふたつの聖隷に《一号》《二号》と意味のない名前を与えた。

さて、このお話では、初公開の情報がいくつか出てます。

まずは一号・二号の真名です。例にならってアルファベットに変換しても、意味は本当にそのままです。

聖隷一号:ヴォルデュー=イヴ
聖隷二号:ヴォルデュ=スニー
※原文では上記のとおりなんですが、たぶんヴォルデュー=numberなので二号の方が誤植かと思います。イヴ=one スニー=two です。
(12/20追記)平松さんのツイートによると、誤植ではないとのこと。

このお話で面白いのは、テレサははじめ二人の聖隷にそれぞれ「銀の騎士」「金の一角獣」という意味の真名を与えようと考えていたということです。

聖隷には人のような心はない。聖寮はそのように教えていた。だから彼女は他の対魔士と同じように、あるいはそれ以上に、聖隷を《道具》扱いしている。プレイヤーはそのような印象を持ったと思います。自爆特攻を命令したり、フィーにベルベットを殺して自害するよう命令したりと。

しかし、テレサがパーティに同行している頃のチャットでは、フィーが「僕は二号じゃなくてライフィセットです。聖隷は道具なんかじゃないから」ということを伝えると、意外にもすぐに「わかりました。これからはライフィセットと呼びます」と言って、他の人を驚かせます。
それから、フィーとも姉弟のように普通に会話して、聖隷にも人間と同じように心があると気付き、理解していく。

テレサの心が融けていったのは、このときが初めてなのだと、一号・二号という名前もめんどくさいから適当に付けたようなものなのだと、私は思っていました。 

でもこの小説を読むと、どうやら、新人の頃の彼女は聖隷に対して無意識に《情》を感じ、母が子にするように彼らを名付けようとしていた。もともと、そういう優しい人だったのだとわかります。
しかし彼女はその気持ちを振り払い、あえて《個》を消すような名前を与えた。 

区別がつけばいい。道具なんだから。それに、道具に向ける《情》なんて不要だ。そんなものは《理》に必要ない。そんなものを抱いてしまっては、無駄になり、いつかオスカーにも迷惑がかかるから……という思考なのでしょう。

テレサは、何も考えずに一号・二号と付けたのではなかった。むしろ、よく考えて、あえて一号・二号という名前を与えた。

彼女が氷のように冷たいのは、自分のぬるさを隠すためで、無論それはオスカーのためだったのだとわかる、たいへんありがたいお話でした。
これを読んだあとにベイルド沼野のイベントを見たら、テレサのことがすごく好きになりました。 

ちなみに平松さんのツイッターによると、一号をデゼルポジションにする案もあったようです。「二号だけでなく一号も高い潜在能力がある」というセリフもあるし、名前まで付けてもらって、やけにザビーダが気にかけていて……と途中まで優遇されていたのは、彼を生かす案があった名残なのか……。

 

時系列の話ですが。
このお話はゲーム本編のだいたい2年前くらいの頃と書かれています。つまり、フィーのテレサへの配属が決まったのが2年前だということです。

一方、ゲーム中では、シアリーズの記憶をめぐるイベントで、フィーとシアリーズが過去に会話しています。

「……配属が決まったそうですね。名前はつけてもらいましたか?」
「聖隷二号」

「それは名前ではありません」
(中略)
(立ち去ろうとするシアリーズ)
「……どこへ?」
「最強の聖主と筆頭対魔士を“殺せる者”を解き放ちに」

ゲームでは、<テレサへの配属が決まった時期>と<シアリーズが監獄島へ向かう時期>がほぼ同じだったように描かれています。つまり、この時期はゲーム本編の直前だったのではないかと思われるのですが、小説の内容と微妙に異なっています。

(12/20追記)平松さんのツイートによると、この小説(二号の配属が決まる)の後、シアリーズと二号はほとんど接点がなく、シアリーズが聖寮を出ていく直前にようやく再会した(ゲームのサブイベント)ということのようです。シアリーズは術式の開発、二号はテレサの任務であちこち飛び回っていたことや、会わせたくない人たちの思惑も絡んでいたとされています。

つまり、サブイベントでシアリーズが「配属が決まったそうですね。名前は?」と聞いたのは2年前のことに対して、という感じのようです。

第2章の冒頭では、3年前の《降臨の日》から数日後のアルトリウスと周辺の人々の会話が描かれています。この時期は、シアリーズにセリカの記憶が戻った直後のことです。

この頃まで、フィーは誰とも契約せず名前もない状態だったようです。ちなみにフィーが誕生したのは10年前ですが、それから7年間どこで何をしていたのか?は不明です。
彼に高い潜在能力があると見抜いたムルジムが「意思を解放して契約した方が有益よ」とすすめますが、《神依》が完成して制御できるようになるまでは、他の対魔士に預けることにしているという。
それについて、アルトリウスとセリカの子の転生体であることを知っているシグレが「里子に出すってわけだな」と言うと、シアリーズは奇妙な反論をするのでした。

「いえ……シグレ様、その聖隷は《アーサーの子アルトリウス様の物ではないということです」

このささやかな叛乱に気付いたシグレはにやりとしますが、アーサーだった男の表情には何の変化も起きませんでした。
原文ではわざわざ傍点をふってアーサー/アルトリウスを対比しています。ここはさすがというか、やはり意識して使い分けていたんだなあと思いました。

また、ここではシグレとムルジムの仲の良さそうな会話もあり、ムルジムの真名も明かされました。「トラマユゲ」だそうです。

3章からは別記事で続きを書きます。今日はここまで。