二月の星のうえ

テイルズが好きです。ほぼネタバレに配慮していない個人的な感想です。

【ベルセリア】小説(下)感想。ベルセリアをもう一周

『テイルズ オブ ベルセリア 下』(著者:山本カズヨシ)が、4/8に発売されました。
上巻の感想はこちら

テイルズ オブ ベルセリア 下 (電撃ゲーム文庫)

下巻で完結ということで、エレノアが仲間になるシーンからエンディングまでがほぼゲームどおり書かれています。
ページ数は280ページ程度で、すぐ読み終わりました。
上巻のときからそうですが、本当に、とにかく淡々と過ぎていくなあという印象。ゲームに忠実なのはいいのですが、もう少し削れるところは削ってまとめられる要素はまとめてくれたら良かったのにと思います。

ライフィセットの視点で綴る、もう1つの“ベルセリア”」という紹介がなされていますが、ゲーム以上の新しい情報はとくになく、「もう1つの」といっていいものかちょっと疑問。せっかくライフィセット視点なんだから、彼の悩むシーンとか独白とかたくさん期待してたんだけども。
ゲームの流れをざっとなぞりたい人には需要あるかな~~。 

あと上巻序章で出た「ふたり」が終章にも登場します。
ゼスティリアファンの方は嬉しいと思う。が、やはり盛大なネタバレとなっているのでプレイした人向け。 

※以下はベルセリア・ゼスティリアのネタバレを含むとともに、ベルセリア警察的な細かい指摘ばかりなのでご注意ください。

気になった点

・誤字脱字がかなり多くて残念でした。ちゃんと仕事しておくれ。 

・設定が誤っているのではという箇所もいくつかありました。

1.
地脈でキメラを倒したあと、現れたのは囚人服姿のベルベットの身体だったというシーン。カノヌシの台詞がなぜか微妙に変えられていました。

【ゲーム版】「”こんなの”はひどいな。”それ”は、お姉ちゃんの正体なのに」
【小説版】「こんなのはひどいな。それは、お姉ちゃんの絶望の姿なのに」

……ん??なんで「絶望の姿」にしたんだろう、と思ったら、その後つぎのような描写が。

地面に横たわっていたベルベットの形をした絶望が、為す術なく空中へ浮かび、輪の中へ吸い込まれていく。輪の内側の暗闇から巨大な怪物の口が現れ、それを丸呑みにした。

ん~……私の理解しているベルセリアと違う……。
作者さんはぼろぼろのベルベットの体が「絶望」の化身だと理解してわざわざカノヌシの台詞を変えているのだと思いますが、あれはベルベットのやってきたこと、他人も巻き込んだ罪の数々の原動力となった「憎悪」を表したもののはずです。
(でもそのあとに小説カノヌシもゲーム版と同じように「世界も、”理”も踏みにじって、ただ感情のままに生きる……。”醜い憎悪”の塊だ」と言っていて、憎悪なのか絶望なのかわけのわからないことになっている)

ちなみにファミ通攻略本でも、「このとき彼女は自らの憎悪で、ほかの喰魔たちの質を備えた業魔キメラを生み出し、また『憎悪』の化身である己の死を暗示させる幻と対峙する。」という解説がされています。

この時のベルベットは「絶望しかけている」けれども真に絶望してはいない状態だった。ラフィの姿と声でひどいことを言って、心を折る作業がまさに進行しているとき。
この時点では、彼女が生んだのはまだ憎悪でしかなかったはずです。「絶望」は、彼女の中で、未だ発芽していない状態だった。
99%の絶望が育っていたとしても、彼女が本当に「絶望」するのは、ライフィセットの手を離したその瞬間になるのだと思う。
だから「絶望」をカノヌシに呑み込ませるという描写では辻褄があわない。

なんのためにわざわざ二つのベルベットの姿を登場させたのかをきちんと考えて欲しい。
「絶望」と「憎悪」は質の違う別のもの。そして「絶望」は、「一つの喰魔が生む二つめの穢れ」。
囚人服姿のベルベットをカノヌシが呑み込む描写は、カノヌシがベルベットのもつ穢れのうちの一つ「憎悪」の質だけを喰らったことを表現するためのものだったと思います。

 

2.
カノヌシの古文書解読の際、つぎのとおり解説がされましたが、誤っています。

この世界には、地上に溢れる”穢れ”を喰い、地脈の力が集中する特別な地”地脈点”がいくつか存在する。

地脈点は穢れを喰っているわけではありません。
穢れを喰うのは喰魔です。そしてそれらがカノヌシと地脈を通して繋がっているため、穢れを送るのに効率的な地脈点に配置しているだけ。地脈点と穢れは関係ありません。

 

3.

四年に一度訪れるという緋の夜。 

違うよ~。
緋の夜は数年に一度の周期で現れるもので、前回が本編開始の三年前、その前が十年前。四年に一度なんてどこからひっぱってきたんだ……

  

4.
あと個人的になんかひっかかったところ。カノヌシとフィーがサシで戦う場面でのことです。

【ゲーム版】(カースランド)
「謝るもんか……ベルベットの気持ちもわからない、お前なんかに」
「……君は、わかるっていうの? ”僕のお姉ちゃん”のことが」
「知ってるよ。けど、教えない」
(中略)
「“お前の”じゃ……ないっ!(左手で殴る)ベルベットはベルベットだ!」

【小説版】(最終戦でのやりとりに組み込まれている)
「お前のお姉ちゃんじゃ……ないっ!」

ん~なんで「お前のお姉ちゃん」にしたんだろう……。

ゲーム版で「”お前の”じゃない」という言い方にしているのは、「ベルベットは確かにお前のお姉ちゃんだったかもしれないけど、お前の”モノ”じゃない」という意味が込められているように思うのですが。
(さらにいうと、男同士の殴り合いで、女の取り合いともとることができるので「ベルベットは僕のものだ!」という想いもあったと思う。)
なぜか小説版は「お前のお姉ちゃんじゃない」になっていて、なんとなくもやもやしました。

いや、ベルベットは「お前のお姉ちゃん」ではあるんだよ、だってそいつはラフィでもあるんだから。フィーが言いたかったのは、「お前のモノじゃない」ということなので、だから「お前のじゃない」という言い方がいちばん正しいと思っていたんだけど……。

ちなみに小説のフィーは、ここでカノヌシを左ストレートでぶっ飛ばしたあと、起き上がろうとするカノヌシに突進してもう一発ぶち込んでます

  

5.
ライフィセットが聖主となったあとの文章。

ライフィセットの姿は、白くて巨大な光のドラゴンになっていた。
四聖主から新たな聖主として認められ、真の力を解放した姿だった。

フィーのあの姿は、「世界に届く白銀の炎」という力を得るため、ドラゴンの姿になるという誓約を課した結果なので、真の力を解放した姿ではないと思うのですが。

 

マギルゥのかわいいポイント

会話に飽きたのか、マギルゥはそう言って前方のロクロウにちょっかいを出しはじめた。

暇になるとロクロウにちょっかいだしてるんだ……かーわいー!
アイゼンに対しても微妙に接し方違ってたらめちゃかわいいな。

  

印象的な改変

ゲームでは終盤で、ベンウィックがベルベットに幸運のお守りとして珍しいりんご「フォーチュンアップル」を渡します。
これが、小説版では次のように再構成されていました。

・ベンウィックがライフィセットにりんごを渡す。
・そのりんごを、ライフィセットがベルベットに渡す。(決戦前夜)
・カノヌシとアルトリウスを倒し、ベルベットがカノヌシとともに眠りにつこうとする際、ライフィセットにりんごを返す。
・ライフィセットが受け取ったりんごを齧る。

ここはすごくいいなあと思いました。

以前の記事(リンゴ、櫛、羅針盤についての考察。愛を分け与えるという循環)でも書きましたが、ゲーム版で最後のりんごがベンウィック→ベルベットというルートだったのが若干腑に落ちていなかったんですが、フィーを経由したことで、完全な愛の循環になりました。うれしい!

そして投げ返されたりんごを手にしたライフィセットの思いの描写もとてもよかった。この小説で一番好きなシーン。 

幸運を呼ぶという言い伝えのある、フォーチュンアップル。生きる勇気をくれるお守り。
ライフィセットは生命を投げ出して欲しくないという気持ちを込めて、ベルベットにこのりんごを渡した。
ベルベットは、そんなライフィセットの気持ちを理解して、りんごを投げ返してきた。
どんなことが起こっても、それでも生きて欲しいという祈りを込めて。

りんごのやり取りに気持ちがきちんと乗っているし、わかりやすく良い描写だなあと思いました。

 

さて、ベルセリア初の小説版でしたが、この分量にあの数十時間分をおさめろって言われたら淡々と進めるしかないのでしょうけど、もう少しメリハリのある再構成をして欲しかったなと思います。掘り下げらしい掘り下げがあんまりなかったので。
一日あれば余裕で上下巻読めちゃうのでダイジェスト版としては優秀なんだと思いますが。
どうでもいいけど私が昔書いたアビスの二次小説の方が3倍くらい長かった笑

↓表紙がとっても素敵です。

テイルズ オブ ベルセリア 下 (電撃ゲーム文庫)

テイルズ オブ ベルセリア 下 (電撃ゲーム文庫)

  • 作者: 山本カズヨシ,バンダイナムコエンターテインメント
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/04/08
  • メディア: 文庫
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最近はテイルズオブザレイズをやってます。ベルセリアキャラの登場が楽しみです。

まだ魔鏡がいっこも出てないんだけど笑