二月の星のうえ

テイルズが好きです。ほぼネタバレに配慮していない個人的な感想です。

【TOtR】カジノイベント感想。レイズのシンクはどう死に、どう生きるのか

テイルズオブザレイズのイベント『カジノミッドナイト』が冗談抜きですごくよかった。あまりにも胸がいっぱいになって本当にこれに見合う言葉がみつからないのですがぐだぐだ感想を書きます。

主にシンクの話をします。レイズ組・鏡精のこともいろいろ判明したけどそれは別の記事にしたいと思ってます。

まず、原作アビスでシンクがどう生きていたのかを書きます。(主観ましましです)

シンクはオリジナルイオンの6番目のレプリカとして生み出されますが、能力が劣化していたため、生きたままザレッホ火山に廃棄されます。その後、運動能力の高さからヴァンに拾われ六神将としてルークたちと対峙するも、最後は敗れ、生まれてから3年も経たないうちに死にます。
彼の人生は終始世界を呪っているものでした。導師イオンが死ぬという預言のせいで、生まれたくもなかったのに生み出され、勝手に棄てられ、気まぐれに拾われただけ。代用品にすらなれなかったゴミで、生まれてから何も得るものがなく、「僕は空っぽだった」と言って死ぬ、救いがほとんどないキャラクターでした。

シンクが自分の生を肯定できなかったのは、普通の人間と違いレプリカとして生まれたこと、しかし代用品にすらなれなかったこと、この2点がどうやっても覆せないくらい根深くて、そんな生まれ方をしたものだからもう穴のあいたバケツみたいに何を与えても彼は空っぽだった、そういう感じだと思います。
そしてそうなったすべての元凶である「預言」をシンクは心から憎んで呪っていた。

レイズ世界に来たシンクが原作と比べてどこか生き生きして見えるのは、ここが預言のない世界であり、他のイオンレプリカが今のところ見当たらず、元の世界での役割や劣等感、元凶からも一応解放されて理屈としては「ただのシンク」としていられるというのが大きかったと思う。
それに加えて、救世軍のメンツが、光のようなキャラクターではなくむしろ自分と同じく世界を呪った面のあるキャラクターが多く、正しくはあれない似たもの同士の避難所のようになっていて、それが(シンクは認めないだろうけど)居心地良くもあったのかなと。ここは彼にとってになんにも関係ない世界で関係ない人間ばかりなのに、マークやゼロスと一緒に戦ったり人助けみたいなことまでしちゃったりしている。

でも、それでも「ボクはレプリカ。ボクは望まれて生まれたのでなかった」という事実(シンクの認識)はレイズ世界といえど覆しようがないので、それがいまだにシンクが世界を憎む理由になっていました。愚かしい生を受けている自分を再びこんな馬鹿げた世界に勝手に誕生させた鏡士を恨み、殺させろとまで言っていた。

原作よりは生き生きとしているけど、「自分が生まれたこと」それ自体を恨んだまま、自分や世界への憎悪は変わっていない。
カジノイベントまでのレイズのシンクはだいたいそんな感じだったと思います。


ではイベントでのシンクを見ていこう~(すでに長い)


ミトス「誰彼構わず辛辣にこき下ろして、それで自分を保ってるつもりなんて、子供だね。そんなに『生きる』のが怖いのかい、シンくん」
マーテル「シンクはああして世界と自分の間の溝を埋めようとしているの」
ミトス「生まれてきたことを呪うばかりでその先に進めない坊や」

この姉弟アビス履修済みなのかなってくらい分析がすごい…
原作のルークの日記にもあったように、シンクが世界を憎むばかりで空っぽのままでいるのって、そうしている方がラクだからという理由もあるんじゃないかなと思ってます。空っぽじゃなくなりたいと願う方がずっとしんどいしかえって傷付く可能性があるから。
シンクは原作で何度も「必要とされているレプリカ(ルークやイオン)と自分は違う」と言っており、そこに強烈な劣等感を感じていたようですが、それは「誰かに必要とされたい」という欲求が彼の根底にあったからこそだと思う。でも、必要とされたいと願ったり自分から何かを求めて「生きる」のは怖いから、周りを憎むことしかしない。世界を馬鹿馬鹿しいと見下すことで、同じように馬鹿馬鹿しい自分の立場を相対的に守ることしかしない。シンクはこの世界でもそこから先に進もうとしていない。ミトスの分析と解釈一致すぎた

 
シンク「ママ代わりの姉貴(マーテル)」
シンク「(クラトスは)アンタのパパなんだね、ミトス坊や」
マーテル「ほら、シンク。早くいらっしゃい。迷子になるわよ」
シンク「……子供扱いするのはやめてくれない?」

今回、やけにママ(マークのスキットでマークが救世軍の母と言われてたことも含む)とかパパとか坊やとか家族を指す言葉が多く出てきていたけど、これらすべて、原作シンクがついぞ得ることのなかった関係性なんだよな、と思いました。
彼には当然親はなく、他のレプリカたちを兄弟だなんて思いたくもなかっただろうし、生まれたときから導師の役割を求められたり(それには失敗しているけど)軍人としての性能や成果を求められるだけで、あとでミトスも言っているけど、彼には子供時代が一切なかった。「子供扱い」されることすらなかったと思います。
つまり、失敗して成長してゆるされ愛情を注がれる時期が彼にはなかったということです。

クラトス「おかえり
シンク「……ただいま。……って、何。この会話。まぁ、いいけどさ」

だからクラトスが保護者役として「おかえり」って言ってそれに合わせて「ただいま」って言っちゃったあとで自分でもなんだこれってつっこんじゃってたけど、そんな家族みたいな会話をする自分が不思議で戸惑っているかのように見えました。
元の世界で、シンクが「ただいま」なんて言ったこと一度もなかったと思う。六神将としての彼の居場所はあったけれど「おかえり」「ただいま」なんて言い合う場所じゃなかった、だからきっと生まれて初めてそんなこと言ったんじゃないかな、そう思うと、シンクに初めての感情をくれて本当にありがとうって気持ちになりました。
マーテルの「子供扱い」も、嫌みがまったくなくすごく愛情が感じられて、それに対しても戸惑っているように見えた。初めて出会う奇跡に苛まれて逃げ腰になるシンクかわいい

 

カジノに入るのに悪目立ちするから仮面取れってマークに言われて「……チッ」って言うだけで大人しくはずしてたの結構意外だったんだけど、そのあとの会話が、

ミトス「目元を隠すのは気が弱いからなんだって? シンくん?」
シンク「アンタも同じ顔がゾロゾロいる環境に生まれたらそんな考え吹き飛ぶよ」
ミトス「……」

って。ここのシンク、ここだけ全然言い返せてなくて普通に本音出てるんだよな……
イオンのレプリカであることを隠す必要がないから仮面をする意味はないんだけど、もしかしたら、皆に見せたくないというよりは自分で自分の顔を見たくないからシンクは仮面をしているのかも、と思いました。自分の顔は、レイズ世界に来ても変わらない、自分がレプリカであること、望まれて生まれたのではないことの何よりの証だもの。
とはいえ彼が仮面を取るのは余程のことだと思うけど、それが出来たのは、あの瞬間は自分に求められてる役割は果たさなければという気持ちが勝ったのかな。シンクは心の奥底でずっと人から必要とされたいと思っていたのだし。仮面をとるのが合理的であると理解もしていたんだろうけど、それ以上に、必要とされる自分にしがみつきたかったのかも。

 
ミトス「……顔。隠さない方がいい」」
「人は同じ顔に生まれても育った環境で微妙に違う顔になるんだって」
「元が何もかも同じだったとしても……同じじゃない」

シンク「やっと死ねたと思ったのに、また生きることを押し付けられて、異世界までつれてこられたと思ったら今度は元勇者サマのお説教か。それともボクがニンゲンじゃないから優しくしたくなったのかい?」
ミトス「ああ、そうだよ。ボクは人間が嫌いだからね。それとも人間扱いして欲しいの?」
シンク「――最悪だね、アンタ。退路を断った」
ミトス「そうさ。ボクに構われたくなかったら人間だと認めて生きるしかない。
レプリカが人間じゃないって言うならボクに優しくされても仕方がない。どっちにしても地獄だね、キミにとっては」
シンク「殺してやる」
ミトス「でも自分から死のうとはしないんだね

ほんとこの会話凄まじい……ニンゲンじゃないと認めても人間扱いして欲しいと認めてもどっちにしろシンクの地雷をぐりぐりに踏みつけられるのが……
ところでレイズのシンクは地核震動停止作戦前から来てるのか後から来てるのか微妙に確定できていなかったけど、後からっぽいですね。とするとアビス勢はみんな同じ時間(エルドラント突入後)から来てるのかな?

さて、ミトスが言ったように、シンクは自分の生も世界も憎くて仕方ないのに、「何もせず自ら死ぬ」っていう選択肢がなぜかないんだよね。
でも、自分も犠牲になるけど地核でルークたちを倒す作戦とか、エルドラントで死を覚悟してルークたちと戦う、とかは普通に出来てしまう。むしろやる気満々で実行しているみたいなところがありました。
そのエピソードだけ見ると、自分が犠牲になることを少しも厭わず自分に価値を感じていないキャラクターだけど。でも、彼が何もしないで死ぬことは絶対になかった。これは自分の命を軽んじてるのとは違うと思うんだよね。
自分も世界も呪っているけど息をすることを投げ出してはいない。自分は誰にも必要とされていないと思っているのに、嫌なら死んじゃえばいいのに、そうしないのは、シンクは、本当は「生きたい」って思ってたんじゃないのかなと思う。
誰かに必要とされて生きたかった、自分らしく生きたかった、そう出来るかもしれないと心のどこかで少しだけ期待してた、だからこそ、何もせずに死にたくはないし、ヴァンに協力して世界から預言を消そうとしていたのかな。

このあたり、マークが言った「望んで生まれた訳じゃねぇからこそ、運命に爪痕残してぇんだよ。存在を生み出した事象そのものに復讐するっつーか」っていう感覚にも近い気がする。世界の仕組みのせいで不自然な生を受けさせられているけど、反撃はしないと気が済まないっていう感覚。こういうところもシンクとマークの近いところだと思う。

 

マーク「抉られる側の気持ち、少しはわかったか?」
シンク「……そんなもの、最初から知ってるよ」

シンクは生まれてからずっとそうだったもんね……と思った……


マーク「……何だよ、まだ怒ってるのかシンク」
シンク「怒ってる?」
マーク「苦虫をかみつぶしたようなすげぇ顔してるぞ。仮面がないからモロわかりだ」
シンク「元々こういう顔なんだよ。ほっといてくれない?」

シンクは鏡で自分の顔なんか見ないんだろうなと思うし、ずっと仮面をしていたから表情を隠す習慣もなくて顔に出やすいのかな、と思ったけど、この場面は(無意識に)構って欲しくて顔に出してるのかもとか思ってしまった。それこそ子どもみたいに……

 

シンク「アンタには価値がある。望んで創り出され、生まれたことに価値がある。必要とされてる鏡精だ。ボクとは違う
マーク「元の世界のことは知らねぇが、俺らには――俺にはシンクが必要だぜ

ここでこの台詞が言えるマークやっぱ本物だな……と思いました。
シンクはシナリオ登場時からマークとつるんでいて、マークに懐いてるとまで言われていました。どうしたらあのシンクをそこまで丸くさせられるのかというと、以前のログボでシンクが「言っておくけど、別にマークを慕ってるとかそういうんじゃないから。同病相憐れむって奴さ。まぁ、ボクはリードにつながれた犬じゃないけどね。目的のために造られた命って意味では同じだろ」と言っているとおり、要は似た者同士、同じ境遇だったからお互いに憐れんでるだけだという説明がされています。
それで、上手いなあと思うのが、このログボではマークよりもシンクの方が自由で優位性があるみたいな言い方してるけど、カジノイベントでシンクが言った本音は「マークは必要とされている。ボクとは違う」で優位性が逆転していることです。本当は「マークは同類なんかじゃなくて、ボクの方がずっと価値がない」ってずっと思ってたのかな……
原作でも、シンクが自分と同じ境遇だと思える人はいませんでした。レプリカは何人かいるけど自分と違って必要とされている、代用品の役割を果たしている。そういう現実もまた、シンクのプライドを傷つけていたんだろうなと思う。

でもマークは、そういうシンクがぐちゃぐちゃ考えていたことを越えて、シンクと(わざわざ「俺には」と言い直して)一対一で向き合うまっすぐな言葉を投げかけました。
そのあとのシンクの言葉は「虫唾が走るね。仲良しごっこはごめんだよ」でしたけど、そんなどストレートにいきなりずっと欲しくて仕方なかった言葉もらったら「はあ?」ってなるしかないよなシンク……急に生き方変えろって言われてるようなものだもん……仮面とったこともそうだけど一日でいろいろなこと起こりすぎだろ……(プレイヤーの心の声)

 

ミトス「……ロイドなら、シンクをどうするんだろう

このミトスの言葉、レイズ世界に来て、ロイドにすくいあげられたミトスだからこそ言える言葉すぎて衝撃でした。「ロイドならどうやってシンクを救うんだろう?」って、ラスボスがそんなこと考えるとかあり得るの……すごすぎる……
誰かに手を伸ばされた自分がいるからこそ、誰かに手を差し出すことが出来る、どんな生まれだろうとどんな過去や罪があろうと。ここはそういう世界だったな、と思い出しました。

 

ミトス「シンク。せいぜい感謝してよね。ボク、シンクの友達になってあげるから
シンク「は!? 誰がアンタと!?」
ミトス「ボクに逆らうんじゃないよ、三下。ボクが友達になってあげるって決めたんだ。お前の意見なんてどうでもいいんだよ」
シンク「気が合うね。ボクもお前の命令なんて聞く気はないよ、堕ちた勇者サマ」

シンク「……何なの、アレ」
ゼロス「さぁ……。まぁ、よかったんじゃね。シンくんにもいいお友達ができて」
シンク「殺すよ、バカ神子」

ミトスは、友達になってくれたジーニアスに救われていたし、レイズに来てロイドの手も取ることが出来た。そういうのがつながって今度はシンクに向けられたことが、本当に奇跡かよってくらいすごすぎた。

ミトスの差しのべた手は、マークとはまた別のものでした。「友達」って、必要だからつくるものじゃない、何か役割を求めるようなものじゃない。シンクが今まで考えもしなかった「人との繋がり」が、「友達」という存在なのです。誰かに必要とされなければ生きる権利すらないと思っていたシンクにとって、そこを飛び越えて「友達になってあげる」と言われるなんてことは、予想外にも程があったと思う。

シンクはああいう奴だからすぐに心を変えることはできないかもしれないけど、みんなゆっくり待っててくれようとしてるのかな、と思えました。というかミトスは「お前の意見なんてどうでもいいんだよ」の言葉どおり、別に返事はいらないしシンクが心を変える必要はないと思ってるかな。お前がどう思おうと知らないけど友達になってやるからまあ感謝してよ、って一方通行で投げつけるだけ。シンクがなかなか返してこないのはもう知ってるから。それくらいの方がお互い性にあってるんだろうな。

ゼロスとのやりとりも含めて最高の場面を目撃したような気がして、しばらく放心してた。なんてものを見せられたんだろうって。


私は、アビスの世界では誰もシンクに手を差し伸べてくれなかったとか誰も救ってくれなかったという訳では決してないと思ってて、でも誰かが彼を救うチャンスは何度もあったかもしれないけど、ただ、シンク自身はあの世界ではそうとしか生きられなかったんだと思ってます。

だからこそ、どうにも出来なかったそれらから逃れてこの世界に来たシンクには、自分の生き方を変える分岐点がこれから先いくらでもあると思うし、そのターニングポイントのたびにもう一度生き直してもいいし、そのまま通過してもいいし、とにかく、この世界でのシンクを縛るものは何もないんだよって言いたいと思いました。

幸運なことに、シンクは救世軍なんていう素敵な組織に巡り会えた。
人との繋がりにおいて全部を好きになる必要なんかないし、むかつくところがあるのは当然で、だからこそ必要以上に踏み込まないし無闇に救おうだなんて思わない、でもお互い認めてるところや信頼してるところがそこそこある。そういう人たちのいるところ。

「ボクはレプリカ。ボクは望まれて生まれたわけでなかった」と彼が言えば「だから何?」と言う人々。
シンクが「むかつくけど同意だね」と仮面の奥でも微笑むことができる場所。

テイルズオブザレイズありがとうございます。

 

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