二月の星のうえ

テイルズが好きです。ほぼネタバレに配慮していない個人的な感想です。

【ベルセリア】公式設定資料集オリジナル小説について/その3

テイルズ オブ ベルセリア 公式設定資料集(12/17発売)のオリジナル小説『真名~true name』についての感想です。
第1章、第2章の記事はこちら。第3章はこちら
そしてできれば、買ってから読むか、読んでから買ってください。

 

第4章 約束

ザビーダとテオドラが恋人の頃のお話、そしてテオドラがドラゴン化するまでのお話です。

まずは時系列の話から。
この小説は、業魔に襲われ親を亡くした子どもたち(ゲームのサブイベントに登場する子)を連れてくるところから始まります。これが5年前のこと。
テオドラとザビーダが出会った詳しい時期は不明ですが、この時点ではまだお互いの真名を知らないので、恋人未満な状態ではあるらしい。ちなみにテオドラが1000歳で、ザビーダが600歳……と、テオドラの方が年上だったようです。
しかしテオドラはザビーダと出会うずっと前から、身寄りのない子どもたちを引き取って世話をしており、すでに味覚がなくなるほどに、人間の出す《穢れ》に冒されていました。

この小説ではじめてわかったことは、「聖隷が穢れに冒されドラゴン化する前兆として、体調不良や味がわからないなどの症状が出る」らしいことです。これは業魔化と似ています。
穢れが強まって急にドラゴンになるケースもありますが、徐々に冒されていく場合、このように自覚症状があるようです。
つまり、人間と長く接する聖隷はゆるやかに業魔・ドラゴン化していき、本人もそれを自覚することは可能だということです。

しかしテオドラは「人間と暮らしたい」という《流儀》を曲げませんでした。
そういえば天界から降りてきた天族も、彼女と同じように、「人間と共存したい」という願いがあっただけでした。それでもどうあってもドラゴン化という悲しい結末を迎えることになるのはもうすべて天界が悪いのですが笑、それは別記事で書きます。

それから一年後。ザビーダは、『いばらの森』という銘の心水を土産に、テオドラの家に戻ってきた。呑み交わせば永遠に添い遂げられるという心水を、夜更けに呑むふたり。そして、このとき初めてお互いに自分の真名を告げるのだった。

好きな女性と一緒に呑む酒にこれを選ぶザビーダが意外と純粋で奥ゆかしく微笑ましかった。間接キスとかでも喜びそう。
テオドラが『いばらの森』にまつわる言い伝えを知っていたかどうかは微妙ですが、自分の真名を明かしたのはテオドラの方が先でした。そして、顔を赤くするザビーダ~~。かわいいかよ。

だが、翌朝テオドラは姿を消した。自身のドラゴン化を予期して去ったのだと思っていたザビーダだったが、真相は違っていた。
ドラゴンを神と崇める教団、ティンタジェル。彼らがテオドラを攫ったという。血翅蝶を頼りティンタジェルの潜伏先を突き止めたザビーダが向かったのは、イーストガンドの果ての廃村だった。

おおおお~ここでティンタジェル!!!!!!
しかしまた謎が深まりました。
かつてはストーンベリィ周辺にいたといわれているが、10年前の開門の日以来姿を消した彼らは、(その一部が?)海をわたってイーストガンドに移住していたらしい。「イーストガンドの果て」というのが東西南北どの果てなのかはわかりません。ゼスティリアのティンタジェル遺跡群がここにあたるかどうかも不明です。しかもこの辺にいた集団は、テオドラに殲滅されてしまうので。

ティンタジェルは、テオドラを禍々しい祭壇に捧げていました。どうやらドラゴン化するのを待っているらしい。
さて、この儀式は何を意味するのだろうか。

ベルセリアの世界では、人間が穢れを発することや、穢れに冒された聖隷の成れの果てがドラゴンだということは、基本的に聖隷以外には知られていませんでした。しかしティンタジェルは穢れに冒された聖隷を誘拐し、穢れを満たし、ドラゴン化するのを待っていた。彼らは知るはずのないことを知っている。また、ここにいたティンタジェルの集団は、ほとんど業魔化していました。
開門の日から、業魔がふつうの人の目に見えるようになりましたが、その日を境に姿を消したのにはどういう意味があるのかも、謎のままです。一体何者なんだ……。

溢れる穢れにあてられたザビーダは、業魔化したティンタジェルたちに襲われてしまう。テオドラは彼を助けようと、黒い穢れの羽で竜巻を起こし、業魔たちを皆殺しにする。力を使い果たしたテオドラの身体は、ドラゴンへと変化し始めた。
テオドラとザビーダは最後に約束を交わす。必ず俺がお前を救う、と。

ここからは、ゲームのサブイベントのとおりです。
アイゼンが「俺は白角のドラゴンを殺る」と口にしたとき、ザビーダはわざわざ訂正します。

「……ドラゴンって言うんじゃねえよ。あいつは、テオドラだ。ドラゴンじゃねえ」

ザビーダはあれを《テオドラ》だと思っている。でも、見境なく人を襲い、恋人さえも殺そうとするあれは、もう《ドラゴン》なのです。
最後にテオドラは「あなたを……殺したくないの……」と言いました。それが彼女の約束で、心からの願いだった。だからこの想いがなくなった時点で、もう《テオドラ》ではなくなってしまった。
《ドラゴン》を殺さなければ、ザビーダはいつまでももういない《テオドラ》に縛られ続ける。アイゼンが殺すことにこだわったのは、《テオドラ》ではなく《ドラゴン》である。
だからアイゼンが「俺はテオドラを殺る」と言わなかったのは正解だったんだなあと思いました。
ゼスティリアからのキャラクターの過去を知ることができて、感慨深かったです。

 

第5章 青空

降臨の日以来、セリカの記憶が戻ったシアリーズが、監獄島のベルベットを解き放ちにいく直前のことが描かれています。

降臨の日の三年後。カノヌシの復活計画のために六人の喰魔を揃え、残るは《憎悪》と《絶望》となったが、監獄島のベルベットはまだ純粋な穢れを生んでいなかった。一つの喰魔に二つの穢れを生ませることがやはり難関になっており、メルキオルも頭を悩ませていた。すると、珍しくシアリーズが自身の意見を述べる。

「ベルベットは、信じていた義兄に弟を殺され、自らは左手を斬り落とされて異形の怪物に変えられました。暗く血生臭い牢獄に囚われ、助けを求めることもできず……もし脱獄できたとしても、帰る家も家族もない孤独が待つのみ。あの娘が今、心を折らずにいられるのは奇跡のようなものです。このまま、手を差し伸べる者がなければ――」
シアリーズはアルトリウスを横目に伺うが、その表情に変化はない。
「――尽きることのない《憎悪》と、底のない《絶望》が、ベルベットの中に生まれるであろうことは、想像に難くありません」
聖隷の乾いた言葉の奥に、アルトリウスへの反発が潜んでいることを、老獪な対魔士は見逃さない。
「シアリーズ、いつになく饒舌だな。聖隷に見解など求めておらぬ。お前は、儂が命じた《術式の研究》だけしていれば良い。下がれ――」

ここのシアリーズ、かなりわかりやすく反発してて、すごく人間味があります。
ゲーム中の「結構、面倒な女なのですよ」という発言のとおり、どこかアルトリウスに「気付いて欲しい」と思ってちらちら様子を伺いながら言っているのも、いい意味で《情》に振り回されているという感じがします。

メルキオルが彼女の反抗に気付いているのはもちろんですが、アルトリウスにも実際刺さっていますよね。何も言わないし表情を変えないけれど、そのように表面を取り繕うことしかできなかったように思えます。

そしてここでも「呼び方」が厳密に使い分けられています。
地の文でもアーサー/アルトリウスの使い分けが徹底されていて、本当に安心して読めます笑
アルトリウスは「タイタニアの喰魔は、《理》に捧げられた贄だ。ベルベットは、もういない」とシアリーズに言う。
そういう彼はもうアーサーではないし、《導師》として世界を導くだけ。でもシアリーズは、優しいアーサーと、ベルベットとラフィと過ごしたあの日々を、忘れることができなかった。イーストガンド領の廃村にある「我が家」のことも、「自分の墓」のことも。

監獄島に向かう直前、シアリーズはアバルにあるクラウ家の墓地へ赴く。アーサーが墓に刻んだ誓いに、シアリーズも胸が締め付けられる。そして、セリカとしてアーサーと出会ったばかりの頃を思い出すのだった。
「鳥はなぜ飛ぶのだと思う?」と尋ねたアーサーに、セリカは「いつか鳥になって、一緒に飛べたらいいのにね。そのとき、なぜ鳥が飛ぶのかが、わかるかもしれない」と答える。それを聞いて、苦しんでいたアーサーの心は軽くなった。くったくなく笑う彼女の横顔が眩しい。アーサーは、彼女と同じ空を見上げて、《初めて》笑えた。

アーサーの過去を知るサブイベントで、セリカのお墓の前で、彼と旅をしていたノルミンから話を聞くことができます。

「使命に疲れてボロボロやった“あの子”を、このお墓の人が救ってくれたんやね……ありがと~なぁ……あの子は、昔からそうやってん……真面目な、真面目な子やった……せやし、いっつも自分で自分を縛り付けてしまうんや……(中略)……お願いや。もうあの子を“自由”にしてあげてくれへんか?」

アーサーは、いつも「鳥は飛ばなければならない」と信じていた。ノルミンが言うように、真面目で責任感があり、自分の能力も自覚していた、ゆえに、自分がやらなければ、と思ってしまう人間だった。そのせいで疲れ切ってボロボロになっても、使命からの逃避を「死」でしか実行できないような、そんな人だったのだと思います。

「鳥はなぜ飛ぶのだと思う?」に対するセリカの回答は、他の誰とも違うものでした。アーサーにとってはそれがきっと特別な答えで、心から救われた瞬間だったのではないかなと思います。セリカに出会って、アーサーははじめて“自由”になれた。
でも彼女が死に、かつての自分に逆戻りしたアルトリウスは、より一層強く自分を縛るようになったのかな。

もし、ゲーム中で誰かがセリカと同じように言っていたら、アルトリウスも少し変わったのかもしれませんが、彼にとっての特別を越えることはきっとなかっただろうなと思います。

ところで、ベルべットが最初にアバルを訪れたときには墓は荒れた様子だったし、この小説でも何も供えられていないようです。
しかし、ゲームのサブイベントの中で、アルトリウスが人知れずアバルの墓を訪れてプリンセシアの花を捧げていたことがわかりました。
ただ、何か心変わりがあって最近になってから訪れたのではなく、恐らくアルトリウスは昔から定期的に花を摘んでやってきていたのだと思います。いくら《理》のためにすべてを捧げようとしても、どうしても捨てられないものがあるのが、人間でした。草花を愛したメルキオルしかり。アルトリウスにとってはそれが《セリカ》だったんだろうなあ。

自分の墓に背を向けて歩き出すシアリーズが呟くのは、自身の真名。
ルズローシヴ=ハイ=フォウェスィ。清浄のための執行者。

シアリーズの真名がここで初めて明かされましたが、ルズローシヴ=レレイ(執行者ミクリオ)と、フォエス=メイマ(清浄なるライラ)から採ったような感じになっています。
シアリーズとゼスティリアの関係が疑われる要素が出てきてまた謎が深まってしまった……笑

さて、シアリーズの真名ですが、アルトリウスは最後まで知らないままだったのではないかと思います。
契約は結んでも、意思を封じた聖隷にかたちだけの真名を与えるだけで、本当の真名――彼女の心を、知ることはなかった。というか、知ろうとしなかったのだと思います。でもそれは、アーサーのセリカへの想いが強過ぎたからという面もあるし、アルトリウスもシアリーズに対して無関心でいるためには彼女の真名を知ることは絶対に出来なかったのだと思います。

場面はかわって、ベルベット一行。
穏やかな午後に、モアナはフィーの真名を教えて欲しいとせがむ。そこにベルベットも加わって、「エレノアと二人だけの秘密なんてイミシンだ」とからかう。ためらいつつもフィーがその名を口にしようとしたとき、ビエンフーが「いいんでフか? ボクたち聖隷にとって、異性に真名を伝えるのは、愛の告白と同じことなんでフよ~~」と教える。

赤くなって逃げ出したフィーを、ベルベットたちが追いかけていきます。この小説は、次の言葉で締めくくられています。

ベルベットがライフィセットの真名を知るのは、まだ先のことである。

これを読んであ~そういえば、と思ったのですが、ゲーム中でライフィセットがベルベットに真名を告げるシーンって、無いですよね?
結局ベルベットはフィーの真名を知ったのか、知らなかったのか?「まだ先」というのはいつになるのか?という疑問。

個人的には、「ベルベットはフィーの真名を直接聞かないまま、眠りについた」というのがいいです。その未完成さは悲しくも美しい。でもそんな表面的な意味だけじゃなくて。

フィーが直接真名を言うシーンが必要なかったと思うのは、「真名を伝えることに意味がなかった」からです。

エンディングで、ライフィセットはベルベットに愛の告白をします。「僕は、ベルベットが好き」。
この小説の第4章で、テオドラは自分の真名を伝えることで、ザビーダへの愛を表現した。ゲームでは、アイゼンとザビーダがお互いに真名を伝え信頼の証とした。「契約者以外に真名を伝える」ことは、聖隷にとって、最大級の感情表現である。

けれどもフィーは自分の真名を伝えなかった。もう「愛を伝える」という意味においては、真名を告げる必要はなかったからです。なぜなら、彼はそれをまっすぐな言葉で表現していたから。

そしてもう一つの理由は。
公式設定資料集のオリジナルチャットで、ベルベットとフィーの会話があります。
そのなかでフィーは「もしも、ベルベットが対魔士として僕と契約したら、やっぱり真名は《マオテラス》だったと思う」と言っています。
これがどの時期のものなのかは不明ですが、ベルベットがフィーの真名を知ってる前提の話になっています。なので個人的にはエンディング後で、かつ夢の中での会話というか、ifに近いものだと思っています。

ここまでの《真名》をめぐる五編の物語で、真名は「そうだ」と気付くもの、契約者は聖隷と心を通わせてその名を感じ取るもの、ということがわかりました。

フィーについても、彼と心が通じた人ならばきっとみんなが「ライフィセットはマオテラスだ」と思うだろう。それが本当の真名だから。

つまり、フィーが直接口に出して伝えなくても、ベルベットはきっと彼の真名を知るだろう。
だからやっぱり、フィーはベルベットが眠りにつく前に、真名を伝えておく必要はなかったと思う。
伝えられなかったんじゃなくて、ベルベットには「真名を教える意味がなかった」。

ベルベットとフィーについては、そういうことなのかな、とこの小説を読んで感じました。
もう一度、ベルセリアを最初からプレイしてみると、あれほど真剣に一言一句注意して二周したのに、どんどん新しいことに気付いていく。いろいろな象徴が人間関係が、単純に複雑にからみあって、最後は収束する。すごい作品だなあと思います。この感動をうまく表現できないのがもどかしい。

そういえば。このブログに現在ある記事の文字数をカウントすると10万字ちかくなっていて、二次創作でもなくゲームへの「感想」でこれだけ書けるとは思わなかったので、自分でも驚いています笑
長い文章を読んでいただき本当にありがとうございます。
設定資料集の他の箇所への細かい感想はまた次回。

テイルズ オブ ベルセリア 公式設定資料集 (BANDAI NAMCO Entertainment Books 56)

テイルズ オブ ベルセリア 公式設定資料集 (BANDAI NAMCO Entertainment Books 56)